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普通のモータ(電動機)は回転力を発生しますが、これを直線状に切り開けば、直線方向の力を発生することができるはずです。それを実現したのが「リニアモータ」です。
「交流誘導電動機」の外から軸の部分まで、ざっくり切れ目を入れて開いてみましょう。
固定子の「開き※」の上に、回転子の「開き」が載った形になります。
この状態で、下側の「固定子の開き」のコイルに3相交流を流すと、上側の「回転子の開き」が(回転する代わりに)直線方向に進みます。これが「リニアモータ」の原理です。
上側の「回転子の開き」を車両の下面に固定し、地上に延々と「固定子の開き」コイルを敷き詰めて3相交流を流せば、車輪に動力が無くても、車両はリニアモータから直接推進力を得てスムーズに走り出します。
さて、神戸市営地下鉄の海岸線車両5000形も、このリニアモータを利用して推進します。
ただし、先ほどのモデルのように、コイルを延々と地上に敷き詰めて3相交流を流すのは大変なので、上下の関係を逆にしています。すなわち、3相交流を流すコイル(回転式交流誘導電動機で言えば「固定子」に当たる部分)を車両側に付け、回転子に相当する部分を逆に地上に敷き詰めて固定しています。
「固定する方」と「動く方」の関係が、回転式交流誘導電動機とは逆になりますが、相互間に働く力は同じですから、問題はありません。回転式交流誘導電動機で回転子といえば外部から電気を与える必要も無く、構造も単純でしたから、リニアモータで「地上に敷き詰める部分」も非常に単純な形で済みます。実際には「リアクションプレート」といって、アルミ板を鉄製の架台の上に固定しているだけです。海岸線のレールとレールの間にある、銀色の板がそうです。
車両側のコイルには、車上のVVVFインバータ制御装置で作った3相交流を流します。
普通の電車は車輪に与えられた回転力で、地上のレールを「蹴って」推進力を得ますが、リニアモータ駆動では地上のリアクションプレートと車両側のコイルとの間に働く電磁力で直接車体を推進します。
レールと車輪の間の摩擦力に頼る普通の駆動方式と違って、加速時や登坂時に車輪がスリップ(空転)することはありません。ですから、海岸線のような急勾配や急曲線でも安定して走ることができます。
また、モータの形状が平面的なので、車両を低床化しやすく、客室の居住性を保ったままトンネル断面を小さくすることができます。
※「開き」は正しい表現ではありませんが、説明を簡単にするため、あえて使っています。